今回はサッカー・ワールドカップの放映権を持つABEMAを傘下に持つサイバーエージェントについて分析します。
サイバーエージェントの事業と業績
サイバーエージェントの主な事業はメディア事業・インターネット広告事業・ゲーム事業の3つです。
事業別売上推移(単位:百万) | インターネット広告 | ゲーム | メディア | その他 | 投資育成 |
2018年度 | 241,451 | 146,552 | 31,489 | 17,598 | 4,263 |
2019年度 | 260,212 | 152,224 | 37,304 | 18,947 | 6,428 |
2020年度 | 269,396 | 155,861 | 57,098 | 19,599 | 4,092 |
2021年度 | 321,313 | 262,751 | 82,869 | 21,744 | 6,441 |
2022年度 | 376,819 | 228,387 | 112,142 | 25,716 | 4,438 |
事業別営業利益推移(単位:百万) | インターネット広告 | ゲーム | メディア | その他 | 投資育成 |
2018年度 | 20,609 | 26,040 | -17,838 | 907 | 4,593 |
2019年度 | 21,071 | 30,337 | -18,267 | 1,300 | 3,068 |
2020年度 | 21,340 | 25,303 | -17,764 | 1,819 | 2,631 |
2021年度 | 22,570 | 96,445 | -15,141 | 479 | 4,408 |
2022年度 | 24,464 | 60,531 | -12,419 | -16 | 2,524 |
インターネット広告事業は売上と利益の両方が右肩上がりで推移しており、サイバーエージェントの安定成長事業といえるでしょう。
ゲーム事業は売上と利益、共に2021年度に跳ね上がっていますが、これはサイバーエージェントの子会社のCygamesのスマホ向けゲームアプリ、ウマ娘 プリティーダービーの大ヒットの貢献による部分が大きいです。業績のボラティリティの大きな事業といえるでしょう。
メディア事業はテレビ朝日も出資するABEMAや競輪オートレース投票のWINTICKET、アメブロ、恋活マッチングアプリのタップルがあります。メディア事業の赤字はABEMAへの投資によるものです。
ABEMAは順調に規模を大きくしてきており、開示資料によると22年9月にはダウンロード数が8,300万を超えているようです。またメディア事業の損益も2019年度をボトムにして切り返しています。この損益改善のトレンドと規模拡大が継続するかが今後の注目点だと思います。
サイバーエージェントの今期の予想PERは11月17日時点で40倍程度で利益に対して時価総額は大きくなっていますが、投資成長事業と安定成長事業が上手くポートフォリオ組まれており、ある程度高PER でも許容される銘柄でしょう。
株価と22年9月期決算
10月26日に発表された22年9月期の決算は引き続き増収着地でしたが、ゲーム事業反動が大きく影響し減益となりました。実績値の株価的なインパクトは4Qのインターネット広告事業のマクロ市況を反映した成長鈍化もあり、ニュートラルか、少しネガティブだったと思います。
23年9月期の業績予想は微増収ながら、営業利益で前年比194億~294億の減益、純利益で前年比42億~92億の減益を予想しています。コンテンツ投資などもありレンジでの業績予想の開示となっています。この業績予想が市場予想を下回っており株価にとってはネガティブでした。
株価は10月26日の決算発表後、事前に期待で上がっていた分を打ち消す形で下落しました。11月1日には額面400億円の転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行を発表しています。CBは社債に新株予約権が付いており、決められた価額で株式に転換できる社債ですので発行されると潜在的に株式の価値が希薄化してしまいます。今回の発行は転換価額1507円で希薄化率5.25%となる見込みです。
サイバーエージェントの財務状況は良好な事から、株式の希薄化リスクのある資金調達は想定していなかったと考えられ、CB発行の発表の翌日から株価は大きく値下がりし、一時は1,100円を割り込む場面もありました。CB発行で得た資金の使途は前回発行のCBの償還資金と投資などに充てるとしています。その後11月4日から反転しCB発行の発表前の水準まで戻ってきています。
これは特に目立った材料があるわけではなく、FIFAワールドカップ関連として物色されているためではないかと思います。
ABEMAはFIFAワールドカップの放映権取得で成長加速できるかが焦点
ABEMAはFIFAワールドカップカタール大会の放映権を取得しており、中には独占配信をする試合もあるようです。取得金額は不明ですが、試合の配信によって利益を出すというより、あくまでABEMAの中長期的な成長につながる投資として認識するべきでしょう。
ワールドカップの放送によるユーザー獲得や関連番組、広告収入などによって、今期のメディア事業の赤字の大きさが変わってきますので、ワールドカップが盛り上がるかどうかは業績に大きく左右すると思います。
今回のワールドカップは前回の大会より、今のところ盛り上がりに欠けているように感じますが、足元では巣ごもりの機運も高まっていることからABEMAの期待は高まっているように思います。ワールドカップへのコンテンツ投資が想定より効果的だった場合は、業績予想のレンジ上限の引き上げなどの可能性もあると思います。
ABEMAの成長が加速して黒字化が見えてきた場合、株価の本格的な上昇も見えてくるように思いますが、当面はメディア事業の赤字の大きさを気にしながらの展開になると予想します。
この記事は11月17日時点で公開されている情報を基に作成しています。
投資は慎重に自己責任でお願いします。