中央銀行がETFを買い入れるという世界でも例を見ない金融政策を日本銀行は行ってきました。
中央銀行が多くの企業の大株主であり続けることは、ガバナンスの問題など弊害が多く正常とは言えません。
金融政策の方向転換の可能性が増してきている中、保有しているETFの出口戦略が決められる日も近いかもしれません。
この記事では現時点で予想される、日本銀行が保有するETFの出口戦略を解説します。
日銀ETFの概要
日本銀行のETF(上場投資信託)の買い入れは、白川総裁時代に始まりました。
その後、黒田総裁に代わってから年間の買い入れ上限額の引き上げが数回行われ、22年3月のETF保有残高は簿価で35兆円に上り、時価では50兆円を超えています。
21年からは買い入れペースの柔軟化をしており、ETFの買い入れは縮小の方向に動いています。
2012年10月 | ETF4,500億円上限 |
2012年12月 | ETF2.1兆円 |
2013年4月 | 量的・質的金融緩和(異次元緩和) ETF年1兆円 |
2014年10月 | 追加緩和 ETF年3兆円 |
2016年1月 | マイナス金利導入 |
2016年7月 | ETF年6兆円 |
2020年3月 | ETF上限年12兆円 |
2021年3月 | 定額買い入れから柔軟化 |
そもそもETFの買い入れは総額4,500億円で始まった政策です。それが物価目標が達成できずに、規模の拡大が続いて現在の残高に至っています。
出口戦略
まだ具体的な出口戦略について見えていませんが、いくつか現時点で想定されている出口戦略があります。
ETFばらまき
簡単に言えば出口としてETFを国民に分配する案です。
全国民に証券口座を付与する、「ベーシックアカウント」とセットで議論されることが多いです。日銀ETFの保有残高は国民一人当たり40万円程度です。
2020年の特別給付金が10万円でした。長い時間をかけて分配していく事を考えれば、40万円程度はありえない金額とは言えないでしょう。
ただ、国民に分配してもすぐに売却されては市場の需給は崩壊してしまいます。ですから実現したとしても、何らかの制限付きで分配されることになるでしょう。
格安購入
希望する個人が割引価格で購入する案です。
ニッセイ基礎研究所の井出慎吾氏がレポート*で提案しているのが代表的です。この場合も売却に制限をかける必要があります。
ただ、割安といっても購入原資が必要ですから不公平感強く、反発も大きくなることが予想され実現は難しいでしょう。
*参照:ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート 『日銀ETFを活用した 日本経済の底上げスキーム』(2022.10.11)
基金創設
簡単に言えばETFを日本銀行から独立した機関に切り離すという案です。東海東京アセットマネジメントの平山賢一氏が提唱している案です。
ETFを創設する長期成長基金に譲渡して、日銀はETFの簿価分の長期成長基金債を受け取ります。
基金の運用はETFから株式に交換した上で共通利益を追求する対話を投資先企業としていく事も案に含まれています。
こうした対話は現状の日本銀行がETFを保有している状態では、出来ませんから画期的な案です。
また、配当金を原資に研究開発資金に充てることも提案されており、中長期的に日本経済を底上げることが出来そうな案のように思います。
参照:平山賢一(2021)『日銀ETF問題』(中央経済社)
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市場売却
市場売却論は投資家が一番恐れる案です。
少しずつ売却するとしても、今まで買いで下値を固めていたのと、真逆の上値を抑える効果が数年間続くことになるわけですから、市場参加者の誰の理解も得られないでしょう。
GPIFへの簿価譲渡
GPIFが日本銀行からETFを購入する案です。
GPIFの運用ポートフォリオのバランスが崩れますから、日本株式の比率を下げるために売却が必要となります。
以上の案が現時点で想定されている主な出口です。
いずれの案もすべての問題を解決するものではありませんが、一番現実的かつ成長に資する案は基金論だと思います。
この問題は株価にかなり影響しますので、これからも注視する必要があります。